パリの泥の匂いを嗅げ
近代パリの生活を描いた本というのは割とある。そしてそれらの書物を読んでいると、どの書も、特定の「ある本」について言及していることに気付く。その特定の本とは、つまり、本書だ。
そんな本書は作家メルシエが描いた革命前夜のパリの見聞記だが、パリの大通りも裏道も、物売りの喧騒も道のぬかるみも、腐った空気も冗長な役人も、まさしく世相百態を軽妙洒脱な筆さばきでバッサバッサと評していく。批判精神を備えた皮肉屋である一方で、庶民や弱者に対する隠しきれない共感も持ち合わせており、読後感も決して悪くない。
かくして生まれたるは生活史界の聖典、金字塔。本書を経ずして近代パリを語るなかれ。
ちなみに「下」は
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